コンピュータを用いた化学反応のヴァーチャル実験(註1 ) を目指して

第18回屋高フォーラム(生徒会誌々上)

令和3年10月9日(土)に開催予定であった「屋高フォーラム」は、新型肺炎の感染拡大により、学校と協議の結果、昨年に続き生徒会誌『鳩陵』への誌上開催とさせていただきました。

北海道大学化学反応創成研究拠点・拠点長 前田 理 氏
(2021年ノーベル化学賞リスト教授の共同研究者)

 【講演要旨】
 すべての物質は原子を構成単位として成り立っているが、なぜ構成単位が分かっていながらその挙動を自在に明らかにすることができないのか、という小学生時代の疑問が、今の研究の原点となっている。そして今、コンピュータと量子化学計算を用いて、この課題を世界に先駆けて開発することに成功した。化学反応は、分子が安定な構造から別の安定な構造へと変化する過程であるから、反応物の構造から生成物の構造へと分子が変化する過程を調べれば、化学反応における分子の挙動を明らかにできるが、例えば1点当たり1分で計算できたとしても、1030秒(317垓年)要してしまい、これを調べることが不可能になってしまう。

 この課題に、前田教授は、人工力誘起反応(AFIR)法(註2)という計算法を開発し解決した。この未知の化学反応の予測を可能にしたAFIR法により、分子をコンピュータ上で混合し、得られる反応経路ネットワークから生成物と反応機構を予測する、いわばヴァーチャル実験が可能になった。未知の化学反応を予測する夢の実現への大きな一歩であると位置付けられる。現在、ヴァーチャル実験の結果に基づいてリアル実験を実施し、新反応を見つけ出す、計算主導の新反応開発への挑戦を進めている。

 化学反応創成研究メンバーの一人である、リスト教授(ドイツ・マックスプランク石炭化学研究所)は、2021年ノーベル化学賞を受賞したが、同教授は、創設当初からここのメンバーとして参加してくれており、世帯的にも注目された研究分野である。
〈同窓会編集室による脚注〉
(註1)  virtual 「現実そっくりに作られ、現実の世界であるかのような」実験
(註2)  人工力誘起反応 ArtificialForce Induced Reactionの略

まえだ さとし氏。高校第50回(平成10年理数科)のご卒業。平成19年(2007年)3月東北大学大学院理学研究院より博士学位(理学)を取得。日本学術振興会特別研究員PD、京都大学白眉プロジェクト・特定助教、北大大学院理学研究院准教授等を経て、平成29年(2017年)より現職。